【コラム】「異音」はどこにも残らない


このコラムについて

当ブログは2024年11月から、JR東日本各路線の運行情報を自動で記録しています。 2026年8月27日までで9,157件

この9,157件を検索して、あれ?と思ったことがあります。

それは、遅延情報の記録の中に「異音」という言葉が1件もないことです。 「異常な音」も0件。それどころか、「音」という文字が9,157件中1件も出てきません。

私は以前から、駅で耳にする「異音を確認したため」という説明の多さについて 何度か書いてきました。それなのに、自分で集めた記録には1件も残っていない。 これはどういうことなのか綴ってみたのがこのコラムです。

私は確かに「異音」というアナウンスを聞いている

自分の過去の記事を引いておきます。

2023年2月、私はこう書きました。

「異常な音を検知したため~」「異音のため~」表現こそいくつか違えど、 要するに「電車走行中に異常な音が聞こえたから電車止めまーす」というこれ。 車両点検と同じぐらい頻繁に見かける遅延理由のひとつです。

2025年2月にも、同じことを書いています。

その遅延理由としてよく耳にするのが「異常な音を検知したため」や 「異音確認のため」といったフレーズです。

その後も、私自身は日常でJR東日本を利用しませんが駅の近くを通りかかる際に「異音のため~」というアナウンスを何度となく聞いています。記憶違いなどではありません。

遅延情報として受け取った理由部分は62種類に分類されていた

では記録には何が書かれているのか。9,157件から理由の部分を抜き出すと、 全部で62種類でした。しかも上位10種類で81.6%を占めます。

理由 件数 構成比
踏切内点検 1,617 17.9%
線路内点検 1,454 16.1%
車両点検 938 10.4%
人身事故 805 8.9%
救護活動 777 8.6%
線路内立入 578 6.4%
安全確認 361 4.0%
旅客転落 312 3.5%
車内安全確認 260 2.9%
信号関係点検 250 2.8%

決まった言葉のリストから選んでいる、という形です。 そしてそのリストに「異音」はありません。

駅で聞く「異音を確認したため」に対応するものがあるとすれば、 おそらく「線路内点検」1,454件や「車両点検」938件、 あるいは「安全確認」361件のどこかに含まれているのでしょう。

ただし、どれが異音だったのかは分かりません。 1,454件の「線路内点検」のうち、何件が異音の確認だったのか。 記録からは判別できません。

異音が何なのか結局何も分からない

「異音のため~」、「異常な音を検知したため~」の遅延について、 後からそれを確かめる方法が、利用者には何もありません。

  • JR東日本の運行情報ページは、いま起きていることだけを表示します。 過去の記録は残りません
  • 中継されるYahoo!路線情報では、理由の言葉が置き換わります
  • どちらにも、その異音が何だったのか、原因が判明したのかは書かれません

3年半前のコラムにて、私はこう書きました。

異音を検知した後の確認作業の中で、「さっき検知した音の原因はこれだった、 じゃあ運行に問題ないから運転再開しよう」みたいな流れがあると思うのですが、 それを貴重なデータとして記録・蓄積した上で今後の運行に活用してみたり、 そもそも異音の発生自体を抑制する対策ってできないのかな?と思います。

3年半経って、この問いは少しも答えられるようになっていません。 公開されている情報から、異音による遅延が増えたのか減ったのか、 原因が何だったのか、対策が効いたのか。何ひとつ確認できません。

私は9,157件を自分で集めましたが、それでも分かりませんでした。


所感

「本当の理由」なのか、確かめる手段がない

はっきり言えば、私は駅で聞く「異音」という説明を、あまり信用していません。

ただ、それは証拠があって言っているのではありません。 「異音は嘘だ」と書くつもりもありません。書けるだけの根拠がないからです。

私が問題だと思うのは、そこではありません。 本当の理由なのか、その場をしのぐための言葉なのか、 利用者にはそれを区別する手段が用意されていないということです。

区別できないまま、頻繁に電車を止められている。 そして止まった理由を後から確かめようとしても、記録がどこにも残っていない。 この状態を放置していること自体が、問題だと思います。

「予兆把握」を掲げているのに、記録が出てこない

2026年1月から2月に大きなトラブルが相次いだあと、 JR東日本は2月10日に対策6項目を公表しました。その3番目がこれです。

検査や点検のレベルアップ ○予兆把握の取組み(モニタリング技術の導入や DX 化の加速により、 設備不良が発生する前に的確なタイミングで修繕を実施)

異音というのは、まさに「予兆」ではないのでしょうか。

走っている列車から普段しない音が聞こえた。それは設備か車両のどこかに 何かが起きているという信号です。会社が「予兆把握」を掲げるのであれば、 異音の記録はその中核にあるはずです。

その予兆が、年間どれくらい発生していて、原因の内訳がどうなっていて、 対策でどれだけ減ったのか。会社は当然、把握しているはずです。 把握していないなら「予兆把握」は看板だけということになります。

では、なぜ公表されないのでしょうか。

説明の粒度が、そもそも粗すぎる

JR東日本自身の文面も、決して詳しいものではありません。 今日たまたま出ていた運行情報は「車両に人接触の影響で」でした。 私が集めた記録も「線路内点検」「車両点検」「安全確認」といった言葉の羅列です。

こうした言葉は、何が起きたかを説明していません。分類しているだけです。

もちろん、緊急時の一次情報に詳細を求めるのは無理があります。 その場では簡潔であるべきです。

ただ、後から詳しく説明する場が用意されていないのは別の問題です。 大きな事故については原因と対策のプレスリリースが出ます。 それは評価します。一方で、毎日十数件起きている小さな遅延については、 分類名がひとつ表示されて、それで終わりです。

年間5,000件近く起きている出来事について、 利用者が受け取れる情報がざっくりした分類名だけというのは、 公共交通機関の説明として十分なのでしょうか。

一応、進んでいることもある

  • 2026年2月10日の対策6項目に「予兆把握の取組み」「モニタリング技術の導入や DX化の加速」「ドローンを活用したリモート点検の試行」が挙げられています
  • 同じ6項目に「検査や点検のレベルアップ」「技術系の採用を従来計画より 約150名増加(2027年度より)」も含まれます
  • 大きな輸送障害については、原因と対策を具体的に公表しています (宇都宮線の架線断線では、摩耗7.91mmを確認していながら別の線を張り替えた という経緯まで公開されました)

大きな事故についてはここまで書けるのだから、 日々の遅延についても、もう少し書けるのではないでしょうか。 少なくとも、年に一度、理由の内訳を集計して公表するくらいはできるはずです。

私が個人で9,157件を集めて分類しているのは、 会社がそれを出してくれないからです。


出典

このコラムで使ったデータ

  • 当ブログの運行情報記録 9,157件(2024年11月1日〜2026年8月27日) 検索・絞り込みができる一覧:https://jrechien.com/archive/
  • 当ブログの過去のコラム 「異常な音の検知による遅延が異常に多すぎないか?」2023年2月13日 「今日も今日とて異常な音」2025年2月15日

引用した資料

タイトルとURLをコピーしました