【コラム】山手線の遅延について考える


このコラムについて

このコラムは、当ブログが2024年11月3日から2026年8月23日までに記録した 山手線の335件を集計したものです。

日本で最も有名な路線ですが、数えてみると意外な特徴がありました。

  • 記録件数は335件で15路線中12位。思ったより少ない
  • 遅延の理由が人に関わるものに極端に偏っている(76.4%)
  • 踏切と線路内点検を理由とするものは合わせて2.1%しかない
  • 他の路線から巻き込まれた遅延は17%と少ない
  • 最も多いのは朝ではなく夕方18時台

数字を見ていく前に、この記録で言えることと言えないことを書いておきます。

この記録は「当ブログが受け取った通知の件数」であって、 「実際に起きた輸送障害の件数」ではありません。 同じ事象でも続報が届けば その分だけ増えます。意味があるのは件数そのものではなく、 理由や場所の構成比のほうです。記録の取りこぼしもあり得ます。

335件の内訳です。

  • 自線内で発生:237件
  • 他路線から波及:47件
  • 発生場所不明:51件

このあとの理由・場所の集計は、自線内で起きた237件だけに絞っています。

遅延理由 — 4分の3以上が「人」に関わるもの

理由 件数 構成比
安全確認 54 22.8%
救護活動・急病 45 19.0%
荷物挟まり・ドア関係 43 18.1%
車両点検・車両故障 30 12.7%
線路内立入り 21 8.9%
旅客転落・接触 9 3.8%
人身事故 9 3.8%
その他 9 3.8%
信号関係 4 1.7%
架線関係 3 1.3%

安全確認、救護活動・急病、荷物挟まり、線路内立入り、旅客転落、人身事故。 これらを合わせると181件(76.4%)になります。

そして注目すべきは、上位に何が「ない」かです。

他の路線で必ず上位に来る踏切内点検と線路内点検が、上位10位に入っていません。 実際に数えると踏切2件・線路内点検3件、合わせて5件(2.1%)しかありませんでした。

他の路線と並べると、その少なさがはっきりします。

山手線 東海道本線 中央線快速
踏切+線路内点検 2.1% 45.3% 11.5%
人に関わるもの 76.4% 30.8% 63.4%

山手線の遅延は、ほぼ「人」で起きています。 線路や踏切といった設備が原因で止まることは、ほとんどありません。

発生場所 — ターミナル駅に集中

発生場所として駅名や区間が書かれていた237件の上位15です。

場所 件数
新宿 20
大崎 14
渋谷 13
東京 11
大塚 9
日暮里 9
原宿 8
池袋 8
新宿〜新大久保 8
秋葉原 7
新大久保 7
恵比寿 7
田端 7
鶯谷 7
目白 7

上位のほぼすべてが駅名です。 区間として書かれているのは 「新宿〜新大久保」だけでした。

新宿20件、渋谷13件、東京11件、池袋8件。乗降客の多いターミナルが並びます。 理由の構成(人に関わる事象が76.4%)と考え合わせれば、当然の結果です。 人にまつわることは、走行中ではなく駅で起きるからです。

一方で、大塚9件、原宿8件、目白7件、鶯谷7件と、 必ずしも大きくない駅も上位に入っています。

他路線からの波及は17%

47件が、他の路線で起きたことの巻き込みでした。17%は15路線の中でも 低いほうです(最高は総武線の75%)。

発生元の路線 件数 波及分の割合
埼京川越線 18 38%
京浜東北根岸線 12 26%
中央線 6 13%
東海道本線 4 9%
常磐線 2 4%
中央総武線 2 4%
横須賀線 2 4%

山手線は環状運転で、他の路線への直通運転がありません。 そのぶん外からの影響を受けにくい構造になっています。

波及元の上位が埼京川越線と京浜東北根岸線なのは、 どちらも山手線と線路を並べて走る区間があるためでしょう。

時間帯と曜日 — 朝より夕方

最多は18時台の40件でした。

多くの路線が8時台に集中するのに対し、山手線は夕方に寄っています。 通勤の行き帰りだけでなく、買い物や飲食で夜に利用する人が多い路線なので、 そのぶん夕方以降の利用が厚いということでしょう。

40 39 49 45 62 56 44

金曜62件が最多で、土曜56件がそれに次ぎます。 中央線快速が土日に平日の6割まで落ちるのとは対照的で、 山手線は土曜が平日平均(47件)を上回っています。

金曜と土曜が多いという分布は、他の路線にはあまり見られません。 これも通勤以外の利用が多い路線の特徴だと思われますが、 データが示しているのは分布だけです。

全路線の中での位置づけ

指標 山手線 15路線での位置
記録件数 335件 12位
他線波及率 17% 下から2番目(波及を受けにくい)
踏切・線路内点検の割合 2.1% 最少
人に関わる事象の割合 76.4% 最多

記録件数が335件と少ないことは注目に値します。 日本で最も本数の多い路線の一つでありながら、 常磐線(1,074件)の3分の1、東海道本線(978件)の3分の1です。


所感

「遅れにくい路線」だと言ってよさそう

数字だけ見れば山手線については素直に評価して良い気がします。

記録335件は15路線中12位。踏切と線路内点検を理由とするものは2.1%。 他の路線からの波及も17%と少ない。 設備が原因で止まることが、他の路線に比べて明らかに少ない路線です。

理由は察しがつきます。踏切のある区間がほとんどなく、 環状運転で他の路線への直通もない。 つまり、 遅れる原因が入り込む隙間がそもそも小さいのです。

これは偶然ではなく、長い時間をかけた投資の結果でしょう。

※きちんと遅延の事実が隠されずに公開されていれば、という前提付きでしかありませんが…。

だからこそ、他の路線との差が気になる

同じ会社が運行していて、山手線は踏切と線路内点検で2.1%、 東海道本線は踏切だけで30.0%です。

この差は、乗る人の質でも運転士の腕でもありません。設備の違いです。 そして設備は、会社が投資の判断で決めます。

山手線でできていることが、なぜ他の路線ではできていないのか。 利用者数や収益性を考えれば優先順位に差が出るのは理解できますが、 その判断の結果を日常的に引き受けているのは、他の路線の利用者です。

残っているのは「人」の問題

山手線の遅延の76.4%は人に関わるものでした。 安全確認22.8%、救護活動・急病19.0%、荷物挟まり18.1%。

設備の問題を潰していくと、最後に残るのはこれだ、ということだと思います。

ただ、これを「利用者のマナーの問題」で片づけるのは違うでしょう。 急病人が出る、荷物が挟まる、ホームで接触が起きる。 どれも混んでいればいるほど増えます。 そして混雑の度合いは、 車両の数、編成の長さ、運行本数、ホームの広さで決まります。 すべて会社が決めていることです。

線路内立入りが8.9%(21件)、旅客転落・接触が3.8%(9件)、 人身事故が3.8%(9件)。合わせて39件。 このあたりはホームドアで相当部分を防げます。

山手線のホームドアは2025年度末時点で28駅に整備済みです。 それでもこの件数が残っている、というのが現状です。

あの日は山手線も止まった

2026年1月16日、山手線と京浜東北線が停電で長時間止まりました。 運休747本、影響約67万人、体調不良の申告16名(うち救急搬送5名)。

原因は、田町駅の改良工事のあと、送電を再開する際に 検電接地装置の取扱いを誤り、接地したまま送電したことと公表されています。 報道によれば、2025年12月にも同様のトラブルが起きていたそうです。

普段は最も安定している路線でも、作業の手順が守られなければ止まります。 そしてその後、2026年2月10日に公表された対策6項目にはこう書かれていました。

2026年度の修繕費を増額し、2026年度末までに、コロナ期の影響を全て取り戻すべく 交換・修繕を実施

コロナ期に設備の修繕を抑えていた。そして事故が相次いだあとで、 「全て取り戻す」と言い出した。

取り戻す必要があると会社が判断したなら、それまでは足りていなかったということです。 67万人が足止めされてから動き出した。順番が逆だと思います。

一応、進んでいることもある

  • ホームドアは山手線で28駅に整備済み(2025年度末時点)
  • 電車線や軌道の二重化など、断線に備えた設備の強化
  • 2026年2月10日の対策6項目(業務フローの見直しとダブルチェック体制の強化、 異常時対応力の向上、検査・点検のレベルアップ、技術系の採用を約150名増、 修繕費の増額)
  • 異常時には、発生から30分以内に降車誘導の準備を指示する体制の徹底

山手線に関しては、設備の面でやるべきことはおおむねやられていると思います。 問題は、同じ水準が他の路線にも及んでいるかどうかです。


出典

このコラムで使ったデータ

  • 当ブログの運行情報記録(2024年11月3日〜2026年8月23日、山手線335件) 検索・絞り込みができる一覧:https://jrechien.com/archive/

引用した資料

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