【コラム】常磐線の遅延について考える


このコラムについて

当ブログでは2024年11月から、JR東日本各路線の運行情報を自動で記録しています。 そのうち常磐線の記録は1,074件。当ブログが記録している15路線で最多です。

このコラムは、2024年11月4日から2026年8月27日までの1,074件を集計して、 常磐線の遅延にどんな傾向があるのかを見ていくものです。 先にざっと結論を挙げると、こんなことがわかりました。

  • 自線内で起きた遅延の4分の1(25.0%)が「線路内点検」
  • 遅延が集中しているのは松戸〜取手のあたり
  • 他路線から波及した遅延は28%で、15路線の中では少ないほう
  • 最も多いのは9時台(他の路線は8時台が多い)

ただ、数字を見ていく前に、この記録で言えることと言えないことを 先に書いておきます。ここを飛ばすと数字を読み違えます。

この記録は「当ブログが受け取った通知の件数」であって、 「実際に起きた輸送障害の件数」ではありません。 同じ事象でも続報が届けば その分だけ件数が増えます。なので「常磐線で1,074回の遅延があった」とは言えません。 意味があるのは件数そのものではなく、理由や場所の構成比のほうです。

記録の取りこぼしもあり得ます。(発生していない遅延記録の水増しはありません)

このあと「自線内で発生」と書いているのは、通知の本文に発生場所として 常磐線の駅名や区間、または常磐線自身の名前が書かれていたものです。 別の路線名が書かれていたものは「他路線から波及」として分けました。 発生場所を読み取れなかった130件は、割合の計算から外しています。

  • 自線内で発生:683件
  • 他路線から波及:261件
  • 発生場所不明:130件

遅延理由 — 4分の1が「線路内点検」

自線内で起きた683件の内訳です。

理由 件数 構成比
線路内点検 171 25.0%
車両点検・車両故障 101 14.8%
踏切内点検・踏切支障 67 9.8%
人身事故 66 9.7%
救護活動・急病 52 7.6%
安全確認 47 6.9%
その他 46 6.7%
線路内立入り 33 4.8%
荷物挟まり・ドア関係 22 3.2%
旅客転落・接触 20 2.9%

「線路内点検」だけで4分の1を占めています。 15路線の中でも高いほうです。 線路内点検・踏切内点検・車両点検・安全確認を合わせると56.5%になり、 点検や確認を理由とするものが過半を超えます。

人身事故は9.7%。10件に1件の割合です。

発生場所 — 松戸〜取手に集中しています

発生場所として駅名や区間が書かれていた510件の内訳です(上位15)。

場所 件数
松戸 28
松戸〜柏 28
我孫子 23
取手〜藤代 20
19
上野 18
南千住 17
神立〜高浜 13
北千住〜松戸 13
龍ケ崎市〜牛久 13
取手 13
日暮里〜三河島 12
牛久〜ひたち野うしく 12
荒川沖〜土浦 12
日暮里 11

松戸・松戸〜柏・柏・我孫子・北千住〜松戸・取手・取手〜藤代を合わせると144件。 場所がわかっている分の28%です。松戸から取手にかけて、かなり集中しています。

他路線からの波及は28%

261件が、他の路線で起きたことの巻き込みでした。この28%という波及率は、 15路線の中では低いほうです(最高は総武線の75%、最低は湘南新宿ラインの9%)。

発生元の路線 件数 波及分の割合
東海道本線 61 23%
東京メトロ千代田線 56 21%
成田線 34 13%
宇都宮線 34 13%
京浜東北根岸線 22 8%
小田急小田原線 21 8%
横須賀線 11 4%
高崎線 5 2%

おもしろいのは、波及元が南北の両方向に分かれていることです。 東海道本線・宇都宮線・高崎線は上野東京ライン経由でつながっていて、 東京メトロ千代田線・小田急小田原線は常磐線各駅停車の直通先。 どちらの方向からも影響を受けています。

時間帯と曜日

最も多いのは9時台の91件。次いで19時台90件、10時台89件と続きます。

多くの路線は8時台が最多なのですが、常磐線は9時台・10時台にずれています。 夜も19時台90件、22時台75件と多めです。

136 197 156 162 171 138 114

曜日で見ると火曜が197件で最多です。全路線の合計だと金曜が最多なので、 常磐線はちょっと違う偏り方をしています。

全路線の中での位置づけ

指標 常磐線 15路線での位置
記録件数 1,074件 1位
他線波及率 28% 下から4番目(波及が少ない)
遅延を他路線に「出した」回数 21回 下から3番目

記録件数は最多なのに、他の路線に遅延を波及させた回数は21回とかなり少ないです。 つながっている範囲が限られているからだと思われます。

所感

「安全のための点検です」で納得していいのか

自線内で起きた遅延の56.5%が点検や確認でした。線路内点検だけで4分の1です。

これについては「安全のために必要な点検なんだから、遅れるのは仕方ない」という 説明があり得ます。確認を省いて事故を起こされるよりは、はるかにマシです。 それはその通りだと思います。

ただ、その説明を受け入れるには前提があります。 点検や保守そのものの水準が、ちゃんとしていることです。 点検が多いのは「丁寧にやっている証拠」なのか、それとも 「そうしないと持たない状態」なのか。どちらかで意味は正反対になります。

そして2026年、JR東日本が自分でこの問いに答えを出してしまいました。

「コロナ期の影響を全て取り戻す」と書いた

2026年の1月から2月にかけて、JR東日本では大きなトラブルが立て続けに発生しました。 山手線・京浜東北線の停電(運休747本、影響約67万人)、常磐線上野駅の架線切断 (約23万人)、京葉線八丁堀駅のエスカレーター火災、宇都宮線の架線切断(約19万人)。

そのあと、2026年2月10日にJR東日本が発表した対策6項目に、こう書いてあります。

2026年度の修繕費を増額し、2026年度末までに、コロナ期の影響を全て取り戻すべく 交換・修繕を実施

あわせて「検査や点検のレベルアップ」「技術系の採用を従来計画より約150名増加 (2027年度より)」なども挙げられていました。

私はこの「取り戻す」という言葉が気になりました。 取り戻す必要があるということは、その前は失われていたということですね。 コロナ期に設備の修繕を抑えていたこと、そしてそれが設備の状態に響いていたことを、 会社が自分の言葉で認めたようなものです。

削って、事故が続いたから戻した。人命を預かる公共交通機関として、 この順序は問題ありだと思います。 事故が起きるまで戻さなかったこと。そして、戻す必要があると判断できる材料は それ以前からあったはずだということ。この2点は経営判断の失敗として 指摘されていいはずです。

3年間で3回の見落とし

宇都宮線の架線が切れた件について、JR東日本が2026年2月17日に公表した原因を 読むと、こうなっています。

  • 2023年4月の時点で、そのトロリ線が7.91mm摩耗していることを確認していた
  • ところが張り替えを計画するときに「作業責任者と工事計画者が直接打合せを 行わなかったことにより認識に齟齬が生じた」ため、別の線を張り替えてしまった
  • 2024年5月と2025年5月、検測画像を確認する機会が2回あったが、 「要注意箇所として抽出することができませんでした」

摩耗はわかっていた。張り替える計画もあった。チェックの機会も2度あった。 3年のあいだに3回、止められたはずのものが止められずに切れた。 これは私の推測ではなく、会社が公表した資料にそう書いてあります。

こういうことが起きる会社で、常磐線に多く記録されている「線路内点検」171件だけは 違う、と考える理由が見つかりません。

松戸〜取手に集中しているのは何故か

発生場所がわかった510件のうち、松戸・柏・我孫子・取手のあたりが144件(28%)。 同じ区間で繰り返し起きています。

繰り返し起きる場所があるということは、裏を返せば対策する場所を絞り込める ということでもあります。それなのに記録の上では減っていません。 この区間に何があって、会社がこれまで何をしてきたのか。 利用者としては、そこを説明してほしいと思います。

進んでいることもあります

批判ばかり並べても公平ではないので、前に進んでいることも書いておきます。

  • ホームドアは2025年度末時点で162駅に整備済み。2031年度末頃までに 東京圏在来線の主要路線330駅へ整備予定で、当初計画から1年前倒しされました
  • 電車線や軌道の二重化など、断線に備えた設備の強化
  • 2027年度の採用計画で、技術系の全分野で採用を150名拡大

どれも実際に動いています。 ただ、引っかかるのは中身ではなくタイミングです。 これだけのことが「トラブルが相次いだあと」に出てきました。 前倒しできたのなら、増やせたのなら、なぜもっと早くやらなかったのか。 私はそこに企業努力の不足があったと思っています。


出典

このコラムで使ったデータ

  • 当ブログの運行情報記録(2024年11月4日〜2026年8月27日、常磐線1,074件) 検索・絞り込みができる一覧:https://jrechien.com/archive/

引用した資料

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