【コラム】遅延が多い路線・少ない路線


このコラムについて

「あの路線はいつも遅れる」、「あの路線は遅延が少なくて良いな…」。 日頃からJR東日本を利用していると、何となくそんな感覚があるかと思います。これを感覚ではなく数字で見られる資料があります。 国土交通省が公表している、東京圏46路線の遅延「見える化」です。

このコラムは以下2つの観点に基づいた内容になっています。

  • どの路線が多いか・少ないか → 国土交通省の公式データ(令和6年度)
  • なぜそうなるのか → 当ブログの記録9,286件(2024年11月1日〜2026年9月7日)

順番を逆にしないことが大事です。 当ブログの記録は1つの事象が路線ごとに 分かれて届き、続報が来ればその分だけ増えます。件数を路線間で比べる用途には 使えません。 使えるのは「その路線の中で、どの理由が何%か」という構成比だけです。

だから「多い・少ない」は公式データに任せ、「なぜ」だけを自前のデータで語ります。

まず、数字の読み方

国土交通省の数字は「1か月(平日20日間)あたり、遅延証明書が発行された日数」です。

たとえば19.8日なら、平日20日のうち19.8日は遅延証明書が出ているということです。

JR東日本の遅延証明書の条件は公式ページに書かれています。

  • 概ね5分以上の遅れが対象
  • その路線で発生した最大の遅延時分を証明するもの

つまり「その路線のどこかで5分以上遅れた日が、月に何日あるか」という指標です。 遅れの長さや、遅れた列車の数は反映されません。

国土交通省も留意点として、事業者によって遅延証明書の発行条件に違いがあることを 明記しています。ですから他社との比較は幅を持って見る必要があります。 一方で、同じJR東日本の路線どうしの比較と、同じ路線の経年比較は、 条件が揃っているぶん素直に読めます。

上位7路線が、すべてJR東日本

令和6年度(2024年度)の46路線を、公表された合計日数の多い順に並べるとこうなります。

順位 事業者 路線 発行日数 うち30分超
1 JR東日本 埼京線・川越線 19.8日 2.8日
2 JR東日本 東海道線 18.7日 1.7日
3タイ JR東日本 京浜東北線・根岸線 18.3日 0.5日
3タイ JR東日本 中央快速線・中央本線 18.3日 2.0日
3タイ JR東日本 横須賀線・総武快速線 18.3日 2.0日
3タイ JR東日本 宇都宮線・高崎線 18.3日 1.9日
7 JR東日本 中央・総武線各駅停車 16.9日 1.1日
8 東京メトロ 千代田線 16.6日 0.5日
9 東京メトロ 東西線 16.0日 0.3日
10 東京メトロ 副都心線 15.1日 0.3日
11 JR東日本 山手線 14.9日 0.4日
12 JR東日本 京葉線 14.3日 0.8日
16 JR東日本 常磐線各駅停車 13.6日 0.3日
18 JR東日本 常磐快速線・常磐線 11.6日 0.3日
19 JR東日本 武蔵野線 11.3日 0.3日
21 JR東日本 南武線 10.9日 0.3日
22 JR東日本 青梅線 10.3日 0.4日
26 JR東日本 横浜線 7.8日 0.3日
46路線平均 10.0日 0.5日

上位7位までが、すべてJR東日本の路線です。

(順位は公表資料に記載がないため、公表された合計日数を降順に並べたものです)

JR東日本の平均は、全体平均の約1.5倍

表に出ているJR東日本の15路線から平均を計算すると、14.9日になります。 46路線全体の平均は10.0日です。(14.9日は公表資料の路線別の数値から筆者が算出したもので、 国土交通省が公表している数字ではありません)

約1.5倍

そして15路線のうち14路線が、46路線平均を上回っています。 下回るのは横浜線(7.8日)ただ1路線だけです。

埼京線・川越線の19.8日は、平日20日のうち19.8日。 ほぼ毎日、遅延証明書が出ているという状態です。

30分を超える大規模な遅延で見ても、埼京線・川越線の2.8日が最多で、 46路線平均0.5日の5.6倍です。

6年で全体は改善してるが…

この資料には、前回調査(平成30年度)との差も載っています。

46路線の平均は1.7日改善しました。 10日のうち1.7日ぶん減った計算です。

改善した路線を挙げるとこうなります。

事業者 路線 変化
小田急電鉄 小田急線 -6.1日
東京メトロ 南北線 -4.4日
東京メトロ 千代田線 -2.6日
JR東日本 中央・総武線各停 -2.1日
東京メトロ 東西線 -2.0日
JR東日本 山手線 -1.8日

一方、悪化した路線はこうです。

事業者 路線 変化
JR東日本 京葉線 +3.1日
JR東日本 南武線 +3.1日
JR東日本 埼京線・川越線 +1.5日
JR東日本 宇都宮線・高崎線 +1.1日
JR東日本 東海道線 +1.0日
JR東日本 京浜東北線・根岸線 +0.7日
JR東日本 横須賀線・総武快速線 +0.1日

JR東日本の15路線のうち、7路線が悪化しています。

全体としては回復しているのに、JR東日本はむしろ悪化している路線が目立つ結果になっています。

なお国土交通省は、一部事業者の発行基準が前回調査から変更されていると 注記しています(該当事業者名は資料上で特定できませんでした)。 ですから個々の数字の変化を細かく読むことはできません。 それでも「全体は改善方向、JR東日本は半数近くが悪化方向」という向きの違いは、 基準変更では説明しきれない大きさだと思います。

大事なことなので改めて書きます。JR東日本以外は改善傾向、JR東日本は悪化傾向 という事実があるんです。

「なぜ」は路線ごとに違う

ここから当ブログのデータです。件数ではなく、その路線の中での構成比を見ます。

路線 記録数 最も多い理由 踏切が占める割合
東海道本線 990 踏切内点検 28.4% 28.4%
高崎線 732 踏切内点検 27.6% 27.6%
京浜東北・根岸線 689 踏切内点検 27.4% 27.4%
宇都宮線 905 踏切内点検 24.9% 24.9%
横浜線 199 踏切内点検 18.6% 18.6%
埼京・川越線 609 踏切内点検 15.4% 15.4%
常磐線 1,088 線路内点検 18.8% 8.9%
中央線 706 救護活動・急病 15.7% 7.9%
武蔵野線 301 線路内点検 34.2% 0.3%
山手線 337 救護活動・急病 20.2% 1.2%

(記録数は路線間の比較に使えません。同じ行の中の割合だけを見てください)

大きく2つのタイプに分かれます。

  • 踏切が効いている路線 — 東海道本線・高崎線・京浜東北根岸線・宇都宮線。 いずれも4分の1以上が踏切です
  • 人が効いている路線 — 山手線・中央線。踏切はほぼゼロで、 代わりに急病や荷物挟まりが上位に来ます

そして山手線と武蔵野線は、踏切がほぼゼロでも遅延証明書が 月11〜15日出ています。 踏切だけの問題ではないということです。

少ない路線には、少ない理由があります

JR東日本で唯一、46路線平均を下回っているのが横浜線(7.8日)です。 6年前からも1.3日改善しています。

当ブログの記録で見ると、横浜線は踏切が18.6%で、 上位の路線(24〜28%)より低めです。人身事故も上位には来ません。

同じく少ないほうの青梅線(10.3日)は少し変わっていて、 動物との接触・立入りが10.6%と、上位に食い込みます。 これは他の路線では見られない特徴です。

遅延の少ない路線は、都心から離れていて、他路線との直通が少なく、 運行本数も相対的に少ないという共通点があります。 そこを走る人にとっては良いことですが、混雑する路線ほど遅れるという構図は、 利用者数の多いところに問題が集中していることを意味します。


所感

上位7路線がすべて同じ会社、というのは偶然ではないはず

46路線のうち、JR東日本は15路線です。全体の3分の1です。

その3分の1が、上位7位を独占しています。

くじ引きで7回連続同じ会社が出る確率がどれくらいか、 計算しなくても見当はつくと思います。

そして15路線のうち14路線が全体平均を超えています。 下回るのは横浜線だけです。これは「たまたま混む路線を持っている」 という説明では足りません。

JR東日本は遅延が多い。これは誤魔化しようのない事実です。

「首都圏だから」は免罪符ではない

この手の話でいつも出てくるのが「首都圏の混雑は特殊だから」という説明です。

同じ資料に、それを崩す数字が入っています。

小田急線は6.1日改善しました。 東京メトロ南北線は4.4日、千代田線は2.6日。 どれも同じ東京圏を、同じように混雑した状態で走っている路線です。

同じ条件で、他社は改善しています。

一方でJR東日本は、15路線のうち7路線が悪化しました。 京葉線と南武線は3.1日ずつ悪化しています。

混雑が理由なら、他社も一緒に悪化しているはずです。 そうなっていないのなら、理由は混雑ではなく会社の側にあります。

(発行基準の変更という注記があるので、1路線ごとの数字を断定はできません。 ただ、改善している路線が他社に固まり、悪化している路線がJR東日本に固まる、 という偏りまで基準変更で説明するのは無理があると思います)

埼京線の19.8日を、どう受け取ればいいのか

平日20日のうち19.8日。 遅延証明書が出ない日が、月に0.2日しかありません。

しかも30分超の大規模遅延も2.8日で最多。46路線平均の5.6倍です。 そして6年前より1.5日悪化しています。

これは「遅延」ではなく「そういうダイヤ」なのではないでしょうか。

毎日遅れるものは、もう遅延ではありません。 定時運行が例外になっている状態を、遅延証明書という形で 毎日証明し続けているだけです。

そう考えると、遅延証明書という制度そのものが、 問題を吸収するクッションになっているようにも見えてきます。 証明書が出るから会社は説明した気になり、 利用者は諦める材料を受け取って終わる。いろいろ破綻しています。

踏切がゼロでも結局遅れる

当ブログのデータで気になったのはここです。

山手線は踏切が1.2%、武蔵野線は0.3%です。 ほぼありません。 それでも遅延証明書は月14.9日と11.3日出ています。

つまり、踏切をなくせば解決するという話ではありません。

山手線で多いのは救護活動・急病20.2%、安全確認18.1%、荷物挟まり14.5%。 人に関わるものが半分を超えます。

以前、朝8時台の遅延を数えたときも同じ結論になりました。 急病と荷物挟まりが朝に集中していて、設備の点検はむしろ割合が下がる。 混雑そのものが遅延を生んでいるという構図です。

踏切は自治体との共同事業なので時間がかかる、というのは分かります。 でも混雑は会社が決められます。 何本走らせるか、何両つなぐか。 そこに手を付けた形跡が、数字からは見えません。

会社は動き始めたけど…

2026年5月8日の公表資料には、こう書かれています。

2026年度は修繕費総額3,620億円(対前年+約300億円)を計画します

あわせて、技術系採用を従来計画より約150名増、 踏切の予兆把握装置を2029年度までに約1,100踏切へ導入、 日中メンテナンスを延べ約360日から約500日へ拡大、 樹木伐採予算を前年度から約10億円増額、としています。

約1,100踏切への装置導入は、この記事で見た「踏切が4分の1」という 構図に直接効く施策です。 本気で減らそうとしているのだと思います。

ただ、これが動いたのは2026年です。

国土交通省のデータは令和6年度=2024年度のものです。 そこまでの6年間、全体が1.7日改善するあいだに、 JR東日本の7路線は悪化していました。

その6年間、何をしていたのかという問いは残ります。 そして動いたきっかけは、67万人が足止めされた事故でした。

「何か」が起こらないと対策に動かない。時間を奪われ、機会を奪われ、大げさでも何でもなくそれにより人生を左右された人もいるでしょう。そういった「何か」が起こる前に動いてもらえたらと、強く思います。


出典

路線ごとの遅延日数(多い・少ないの根拠)

遅延証明書の発行条件

理由の内訳(当ブログのデータ)

  • 当ブログの運行情報記録 9,286件(2024年11月1日〜2026年9月7日) 検索・絞り込みができる一覧:https://jrechien.com/archive/

会社の対策

タイトルとURLをコピーしました