このコラムについて
台風が近づくと、計画運休のニュースが流れます。大雨の朝は、 駅が混雑しているのをよく見かけます。
「電車が止まるのは天気のせい」 — なんとなく、そう思っていました。
そこで、当ブログが2024年11月1日から2026年8月27日までに記録した 9,157件を、天候が原因のものとそうでないものに分けて数えてみました。
結果は予想と違いました。
なお、この記録は「当ブログが受け取った通知の件数」であって、 「実際に起きた輸送障害の件数」ではありません。同じ事象でも続報が届けば その分だけ増えます。意味があるのは件数そのものではなく構成比のほうです。 記録の取りこぼしもあり得ます。
天候が原因の遅延は、全体の2.6%
台風・大雨・強風・濃霧・倒木。天候に関わるものをすべて足しても238件。9,157件のうち2.6%しかありませんでした。
| 理由 | 件数 | 全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 大雨・降雨 | 89 | 1.0% |
| 強風 | 74 | 0.8% |
| 台風 | 35 | 0.4% |
| 濃霧・視界不良 | 29 | 0.3% |
| 倒木・飛来物 | 11 | 0.1% |
| 合計 | 238 | 2.6% |
残りの97.4%は、天気とは関係のない理由で遅れています。
参考までに、上位の理由を挙げるとこうなります。
| 理由 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 踏切内点検・踏切支障 | 1,644 | 18.0% |
| 線路内点検 | 1,454 | 15.9% |
| 車両点検・車両故障 | 956 | 10.4% |
| 人身事故 | 805 | 8.8% |
| 救護活動・急病 | 777 | 8.5% |
踏切内点検だけで1,644件。天候起因238件の約7倍です。
ただし、季節によってはっきり変わる
年間を通せば2.6%ですが、月ごとに見ると差が大きく出ます。
| 年月 | 月の記録数 | 天候起因 | 割合 | 主な内訳 |
|---|---|---|---|---|
| 2026-08 | 310 | 30 | 9.7% | 大雨23・台風6 |
| 2025-09 | 429 | 30 | 7.0% | 大雨17・台風11 |
| 2025-02 | 421 | 27 | 6.4% | 強風26 |
| 2026-07 | 415 | 24 | 5.8% | 大雨21 |
| 2026-06 | 454 | 21 | 4.6% | 台風18 |
| 2025-04 | 388 | 13 | 3.4% | 濃霧10 |
| 2025-01 | 441 | 0 | 0.0% | — |
| 2025-06 | 412 | 0 | 0.0% | — |
(2026年8月は27日までの集計です)
9月と8月が高く、真冬は2月の強風を除けばほぼゼロ。 季節がはっきり出ています。
そしてここに、このコラムで一番はっきりした事実があります。
天候が原因の遅延が「1件もなかった」月が2回あります。
| 年月 | 天候起因 | その月の遅延記録 |
|---|---|---|
| 2025年1月 | 0件 | 441件 |
| 2025年6月 | 0件 | 412件 |
天気が1度も理由にならなかった月に、441件と412件の遅延が記録されています。 月あたりの記録数は363〜459件(集計途中の2026年8月を除く)、平均421件です。 天候ゼロの月は、むしろ平均並みかそれ以上でした。
面白いのは、同じ「天候」でも中身が季節で入れ替わることです。
- 夏から秋(6〜9月)は大雨と台風
- 冬から春(12〜3月)は強風
- 春(4月)は濃霧
2025年2月の27件はほぼ全部が強風でした。台風は1件もありません。
「雪」がほとんど出てこない
意外だったのは、雪を理由とする記録がほとんどなかったことです。
分類としては用意してあるのですが、記録の上位に出てきません。 関東の平野部を走る路線が中心なので、雪で止まる機会自体が 少ないということでしょう。
一方、冬に多いのは強風でした。2025年12月10件、2026年1月8件、 2025年2月26件。冬の関東は乾いた強い風が吹く日が多く、 そちらのほうが運行に効いているようです。
所感
JR東日本は遅延を天気のせいにできない
まず、この数字が意味するところをはっきりさせておきたいと思います。
遅延の97.4%は、天気とは関係ありません。
そして天候が1件もなかった月にも、441件の遅延が記録されています。 天気が完璧に味方をした月でも、電車はほぼ同じだけ遅れているわけです。
つまり、「今日は天気が悪いので」という説明が通用する場面は、 全体の40件に1件しかないということになります。
私はこれまで、電車が遅れると「今日は雨だから仕方ない」と 自分を納得させていました。その納得は、根拠のないものでした。 雨の日に遅れていたとしても、理由はたぶん雨ではありません。 踏切か、線路か、車両か、混雑です。
天気のせいにしていた分だけ、私は会社に向けるべき問いを取り下げていました。
台風には備えるのに踏切には備えない?
ここが、このコラムで一番言いたいところです。
JR東日本は、自然災害には本気で備えてきました。 のり面の補強、融雪器の整備、雷への絶縁処理、計画運休の運用。 これらは会社が公表している取り組みです。 そして日本は台風も豪雨も多い国なのに、記録上の天候起因は2年弱で238件。 この2つが無関係だとは、私には思えません。そこは事実として認めます。
だからこそ、逃げ道がなくなります。
やればできるということが、証明されてしまっているからです。
自然災害は、いつどこで起きるかを選べません。相手は台風です。 それでも備えて、238件に抑え込んだ。
一方、踏切と線路と車両はどこにあるか全部わかっています。 いつ点検すべきかも、どれくらい摩耗しているかも、 記録を持っているのは会社です。相手は動きません。逃げません。
動かない相手のほうに、6.9倍の遅延が起きています。 踏切内点検だけで1,644件。天候238件の6.9倍です。
これは「できなかった」のではなく「やらなかった」と受け止められても仕方ないのではないでしょうか。
きるのに、自分の設備の劣化には、 事故が起きるまで手をつけなかった。 私はここが納得できません。
台風の日は丁寧なのに、毎日の遅延は分類名ひとつ
説明のしかたにも、同じ落差があります。
台風が近づけば、前日から計画運休が告知されます。 どの路線が、何時から、どう止まるのか。プレスリリースが出て、 報道され、駅にも掲示されます。あの丁寧さはきっと本物です。
では、毎日十数件、年間5,000件近く起きている遅延はどうでしょうか。
利用者が受け取れるのは、「線路内点検の影響で」という一文だけです。 何が起きたのかも、何度目なのかも、いつ直るのかも書かれていません。
年に数回の台風には全力で説明し、 毎日の遅延には分類名をひとつ表示して終わる。
どちらが利用者に多くの時間を失わせているかは、 この集計を見れば明らかだと思うのですが。
一応、進んでいることもある
批判ばかりでは公平でないので、進んでいることも書きます。
- 自然災害対策として、のり面の補強(降雨防災対策)、融雪器の整備(雪害対策)、 機器室への絶縁処理やサージ防護装置の導入(雷害対策)が進められています
- 計画運休は事前に公表され、2019年の国土交通省のとりまとめに沿って 情報提供のあり方が整理されました
- 2026年2月10日の対策6項目には「自然災害に対する対策のスピードアップ (倒木・倒竹対策など)」も含まれています
倒木・飛来物が11件にとどまっているのは、こうした対策の成果かもしれません。
ただ、これらを評価すればするほど、私の疑問は強くなります。 これだけのことができる会社が、なぜ踏切と線路には 同じ本気を向けなかったのでしょうか。
出典
このコラムで使ったデータ
- 当ブログの運行情報記録 9,157件(2024年11月1日〜2026年8月27日) 検索・絞り込みができる一覧:https://jrechien.com/archive/
引用した資料
- JR東日本「一連の輸送トラブルに対する弊社代表取締役社長コメント」2026年2月10日 https://www.jreast.co.jp/press/2025/20260210_ho02.pdf
- 国土交通省「東京圏の鉄道路線の遅延『見える化』(令和6年度)」2026年4月10日 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001995846.pdf(資料3-2)
