このコラムについて
「線路内点検の影響で、一部列車に遅れが出ています」
この一文を、いったい何度読んだでしょうか。
当ブログが2024年11月1日から2026年8月27日までに記録した9,157件のうち、 理由に「点検」という言葉が入っているものが4,588件ありました。 全体の50.1%です。
遅延理由のちょうど半分が「点検」ということになります。
なお、この記録は「当ブログが受け取った通知の件数」であって、 「実際に起きた輸送障害の件数」ではありません。同じ事象でも続報が届けば その分だけ増えます。記録の取りこぼしもあり得ます。
「点検」の内訳
| 理由 | 件数 |
|---|---|
| 踏切内点検 | 1,617 |
| 線路内点検 | 1,454 |
| 車両点検 | 938 |
| 信号関係点検 | 250 |
| ドア点検 | 157 |
| ホームドア点検 | 98 |
| ポイント点検 | 55 |
| 電力設備点検 | 13 |
| 変電所点検 | 3 |
| 架線点検 | 2 |
| 合計 | 4,588 |
上位3つ(踏切内点検・線路内点検・車両点検)だけで4,009件。 「点検」全体の87%を占めます。
「点検」は、結局なにが起きたかを説明していない
ここで考えたいのは、この言葉が何を伝えているかです。
「線路内点検」は、線路の中で何かを確認したという意味です。 では、何を確認したのでしょうか。
- 物が落ちていたのか
- 設備に不具合が見つかったのか
- 走行中に異常を感じたので確かめたのか
どれも「線路内点検」で片づきます。
つまりこの言葉は、何が起きたかを説明しているのではなく、 「確認作業をした」という事実だけを伝えているわけです。
原因ではなく、対応の名前です。
使われている言葉は62種類しかない
当ブログの9,157件から理由の部分を抜き出すと、全部で62種類でした。 しかも上位10種類で81.6%を占めます。
決まった言葉のリストから選んでいる形です。 9,157通りの出来事が、62個の引き出しに振り分けられています。
以前、駅で耳にする「異音」という説明について書いたことがあります。 実は当ブログの記録には、「異音」という語も「音」という文字も1件もありません。 駅では聞くのに、記録には残らない。おそらく「線路内点検」や「車両点検」の どこかに含まれているのだと思いますが、どれがそうだったのかは判別できません。
(この件は「『異音』はどこにも残らない」で詳しく書きました)
2年間、割合は変わっていない
もうひとつ数えてみました。この50.1%が、時間とともに変わったかどうかです。
| 期間 | 記録数 | うち「点検」 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 2024年11月〜2025年9月(11か月) | 4,583 | 2,294 | 50.1% |
| 2025年10月〜2026年7月(10か月) | 4,264 | 2,158 | 50.6% |
変わっていません。
月ごとに見ても43.9%〜57.1%の範囲で上下するだけで、 下向きの傾きはありません。
2026年2月に「検査や点検のレベルアップ」「予兆把握の取組み」が 公表されましたが、その後の3月から7月も45.5%〜52.1%で、 それ以前と区別がつきません。
(2026年8月は27日までの集計なので、上の表からは外しています)
わかることと、わからないこと
わかること:点検を理由とする遅延が、2年弱で4,588件記録された。
わからないこと:
- そのうち何件で、実際に不具合が見つかったのか
- 何件が「確認したが異常なし」だったのか
- 同じ場所で繰り返し起きているものがどれだけあるのか
- 点検を減らすための対策が、効果を上げているのか
利用者が受け取れる情報は、分類名がひとつだけです。
所感
「安全のための点検です」で、納得していいのか
まず、公平なところから書きます。
点検そのものは、責められるべきものではありません。 異常があるかもしれないときに、確認せず走らせて事故を起こすより、 止めて確かめるほうが圧倒的にましです。それは疑いようがありません。
「安全のために必要な点検なんだから、遅れるのは仕方ない」。 この説明は、原則として正しいと思います。
問題は、この説明が何にでも使えてしまうことです。
点検が多いのは「丁寧にやっている証拠」なのか、 それとも「そうしないと持たない状態」なのか。 同じ4,588件が、正反対の意味になります。
そしてどちらなのかを判断する材料は、利用者には渡されていません。 渡されていない以上、「安全のためです」は説明ではなく、 それ以上聞かないでほしいという合図として機能します。
そもそも、なぜ業務時間内に平然と点検を繰り返してしまうのでしょうか。業務時間内に点検を行えば利用者に迷惑がかかることは必然です。業務時間内に点検を行わないように、業務時間外にしっかりと保守・点検作業を行うのがあるべき姿なのではないでしょうか。
「点検による遅延は仕方がない」「点検作業に対して文句を言うほうがおかしい」「いつも安全確認おつかれさまです!」このようなJR東日本を擁護するコメントが、JR東日本を叩くコメントに対して溢れることが珍しくありません。本当にずれたコメントだなと思います。
2年間、何も変わっていない
判断材料がないなら、動きを見るしかありません。数えてみました。
前半11か月で50.1%。後半10か月で50.6%。
まったく動いていません。
2026年1月から2月にかけて、停電で67万人が足止めされ、 架線が切れ、エスカレーターが燃えました。 2月10日には「検査や点検のレベルアップ」「予兆把握の取組み」が公表されました。
そのあとの3月から7月も、45.5%〜52.1%です。 それ以前と区別がつきません。
2年弱のあいだ、遅延理由の半分が「点検」であり続けています。 これを「丁寧にやっている証拠」と読むのは、私には無理があります。
一応、進んでいることもある
批判ばかりでは公平でないので、進んでいることも書きます。
- 2026年2月10日の対策6項目に「予兆把握の取組み」 「モニタリング技術の導入やDX化の加速」「ドローンを活用したリモート点検の試行」
- 同じ6項目に「技術系の採用を従来計画より約150名増加(2027年度より)」
- 宇都宮線の件を受けて、オーバーラップ箇所の点検を 在来線6,894箇所・新幹線2,212箇所(合計9,106箇所)実施
9,106箇所の一斉点検は、相当な規模です。 やるべきことをやっていないわけではありません。
ただ、これだけ動ける会社なのだと分かるほど、 2年間まったく動いていない50%という数字が引っかかります。
やる力はある。記録もある。足りていないのは、それを利用者に見せる気だけです。
出典
このコラムで使ったデータ
- 当ブログの運行情報記録 9,157件(2024年11月1日〜2026年8月27日) 検索・絞り込みができる一覧:https://jrechien.com/archive/
引用した資料
- JR東日本「一連の輸送トラブルに対する弊社代表取締役社長コメント」2026年2月10日 https://www.jreast.co.jp/press/2025/20260210_ho02.pdf
- JR東日本「宇都宮線 停電に伴う輸送障害の原因と対策について」2026年2月17日 https://www.jreast.co.jp/press/2025/20260217_ho03.pdf
- JR東日本「2027年度採用計画について」2026年2月26日 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001364.000017557.html
