【コラム】遅延が起きやすい場所を数えてみた


このコラムについて

これまで路線ごとに遅延を数えてきましたが、今回は路線の枠を外して、 場所そのもので数えてみました。

当ブログが2024年11月1日から2026年8月27日までに記録した9,157件のうち、 駅名や区間が書かれていたのは4,323件。地点の種類は652にのぼりました。

この4,323件を集計すると、はっきりした偏りが出ました。

数え方について。 この記録は「当ブログが受け取った通知の件数」であって、 「実際に起きた輸送障害の件数」ではありません。同じ事象でも続報が届けば その分だけ増えます。記録の取りこぼしもあり得ます。

また、通知には「東海道本線内での」のように路線名だけが書かれているものも多く、 その場合はどの駅・区間かがわかりません。ここで扱えるのは、 場所まで書かれていた4,323件だけです。

なお、複数の路線が走る場所は、路線ごとに別々に数えられています。 たとえば横浜駅で起きた1つの出来事が、複数路線の通知になることがあります。

駅の上位15

順位 件数
1 新宿 114
2 東京 72
3 赤羽 62
4 大宮 61
5 池袋 55
6 上野 40
7 横浜 39
8 渋谷 33
9 立川 31
10 三鷹 29
11 松戸 28
12 中野 27
12 御茶ノ水 27
14 四ツ谷 25
14 大崎 25

新宿が114件で突出しています。 2位の東京72件に大きく差をつけました。

上位には乗降客の多いターミナルが並びますが、必ずしも規模の順ではありません。 赤羽62件が池袋55件を上回り、大宮61件が横浜39件を上回っています。 複数の路線が集まり、乗り換えが多い駅ほど上に来ているように見えます。

区間の上位15

順位 区間 件数
1 品川〜川崎 45
2 新川崎〜横浜 44
3 川崎〜横浜 36
3 茅ケ崎〜平塚 36
3 横浜〜戸塚 36
6 鶴見〜新子安 35
7 川崎〜鶴見 30
8 松戸〜柏 28
9 栗橋〜古河 25
10 池袋〜板橋 21
11 大森〜蒲田 20
11 東鷲宮〜栗橋 20
11 取手〜藤代 20
14 蒲田〜川崎 19
14 辻堂〜茅ケ崎 19

上位が川崎周辺で埋まっています。

川崎から横浜にかけて集中

区間の上位を地図の上に並べると、ひとつの帯が見えてきます。

品川〜川崎45、新川崎〜横浜44、川崎〜横浜36、鶴見〜新子安35、川崎〜鶴見30、 大森〜蒲田20、蒲田〜川崎19、武蔵小杉〜新川崎15。 これに横浜駅39と川崎駅17を加えると、合計300件

場所がわかっている4,323件の6.9%が、 大森から横浜までのおよそ20kmに集まっています。

対照的に、新宿駅とその周辺(新宿114、新宿〜中野15、新宿〜新大久保8)は 合わせて137件です。単独の駅としては新宿が最多ですが、 一帯としてまとまった量では川崎〜横浜のほうがはるかに多いということになります。

この区間には東海道本線・京浜東北線・横須賀線・湘南新宿ラインなど 複数の路線が並走しており、それぞれで記録が立つことも件数を押し上げています。 「1か所で起きた出来事が、複数の路線の記録になる」構造を差し引いて 読む必要があります。

そのほか目についたところ

栗橋〜古河25件・東鷲宮〜栗橋20件。 宇都宮線の埼玉と茨城の県境あたりです。 都心から50km以上離れた場所が、上位に入っています。

松戸〜柏28件・取手〜藤代20件。 常磐線の千葉と茨城の県境あたり。 こちらも都心から離れた区間です。

都心のターミナルだけでなく、郊外の特定の区間にも山があります。 郊外の区間は踏切が残っていることが多く、路線別の集計でも 踏切内点検が最多の理由になっていました。

652か所のうち上位100か所で半分

最後に、この4,323件がどれくらい特定の場所に偏っているかを見てみます。

対象 件数 4,323件に占める割合
上位10地点 568 13.1%
上位20地点 881 20.4%
上位30地点 1,121 25.9%
上位50地点 1,497 34.6%
上位100地点 2,220 51.4%

地点は652ありますが、上位100か所で半分を占めます。

逆に、記録が1件しかない地点は131か所しかありません。 遅延は652か所に薄く散らばっているのではなく、 決まった場所に厚く積み上がっています。


所感

対策すべき場所は、もう絞り込めています

この集計でいちばん引っかかったのは、ここです。

652か所のうち、上位100か所で半分を占めます。

これは、裏を返せばこういうことです。 どこに手を入れれば効くのかは、もう分かっている。

遅延が街じゅうに均等に散らばっているなら、打つ手がないという言い訳も立ちます。 でも実際は違いました。上位30か所で4分の1、上位100か所で半分です。 1件しかない地点は131か所しかありません。

品川〜川崎で45件。2年弱のあいだに、同じ区間で45回です。ひと月に2回。 同じ場所で、同じように止まり続けています。

そして私がこれを数えられるということは、JR東日本はとっくに把握しているだろうということです。 運行の記録も、故障の記録も、保守の記録も、持っているのはJR東日本のほうです。 個人がメールを集めて出せる程度の集計を、把握していないはずがありません。普通なら。

「難しいから」で済むのは工事の話まで

川崎周辺の踏切をなくすには立体交差化が必要で、 これは莫大な費用と年数がかかります。しかも鉄道会社だけでは決められません。 自治体との共同事業になることが多く、「怠けている」とは言いません。工事が進まないことを責めるつもりはありません。

私が納得できないのは、そこではありません。

工事に何十年かかるとしても、「この区間は構造上こういう事象が起きやすく、 こういう対策を何年計画で進めています」ということは、動き出せます。

出来るのにやらない。やったところで遅延が落ち着くだけ。遅延が落ち着いたところで利益につながる訳ではない。遅延していたって利用者が大きく減る訳じゃないから。遅延していたって利用者は利用せざるを得ないのだから。だから本腰入れて対策を行わない。重い腰が上がらない。そういうことなのかなと思ってしまうのです。

何度目の遅延なのか

いま利用者が受け取れるのは、その日その時の 「線路内点検の影響で」という一文だけです。

同じ区間で45回目だということも、 そこが上位に入り続けている場所だということも、書かれていません。

毎朝その区間で止められている人は、それが偶然なのか、 構造的なものなのかを判断する材料を持っていません。 判断させないようにしている、と受け取られても仕方がないと思います。

私が遅延の記録を集計してこのようなコラムを公開しているのは、 JR東日本がこの集計を出してくれないからです。 出せないのではなく、出していないのだと思っています。

大きな事故についてはちゃんと書く

実際、会社は大きな事故についてはかなり詳しく公表しています。

2026年2月の宇都宮線の架線断線では、2023年4月に摩耗7.91mmを確認していながら 「作業責任者と工事計画者が直接打合せを行わなかったことにより認識に齟齬が生じた」 ため別の線を張り替えてしまったこと、その後2回の検測画像でも 「要注意箇所として抽出することができませんでした」と、 自社に不利な経緯まで書いています。

この水準の文書が書ける会社です。

ここまで書けるのに、日々の遅延については、 場所の一覧すら年に一度も出てこない。 その差はどこから来るのでしょうか。

大きな事故は書かざるを得ない。日々の遅延は書かなくても済む。 そういう線引きになっているのだとしたら、 「予兆把握」という言葉とは、ずいぶん距離があります。

一応、進んでいることもある

批判ばかりでは公平でないので、進んでいることも書きます。

  • ホームドアは2025年度末時点で162駅に整備済み。 2031年度末頃までに東京圏在来線の主要路線330駅へ整備する予定で、 当初計画から1年前倒しされました
  • 電車線や軌道の二重化など、断線に備えた設備の強化が進められています
  • 2026年2月10日の対策6項目に「検査や点検のレベルアップ」 「予兆把握の取組み(モニタリング技術の導入やDX化の加速)」 「ドローンを活用したリモート点検の試行」が挙げられています

ホームドアの1年前倒しは、はっきりした前進です。 やるべきことをやっていないわけではありません。

ただ、評価すればするほど疑問は残ります。 これだけ大きな投資を計画できる会社が、 どこで何回止まっているかという一覧を、なぜ出さないのでしょうか。 予兆把握を掲げるのなら、場所ごとの発生状況はその出発点のはずです。


出典

このコラムで使ったデータ

  • 当ブログの運行情報記録 9,157件(2024年11月1日〜2026年8月27日) うち場所の記載があった4,323件を集計 検索・絞り込みができる一覧:https://jrechien.com/archive/

引用した資料

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